創作小説 「功太」 ⑤

病院から帰って家にいると、田村から電話がかかってきた。下宿の場所を教えると、数分後に彼は来た。
「病院に行ったのか」
「行ったよ」
「お前、西宮をどう思う」
「どう思うって言われても」
「おれはあいつが嫌いだ」
理由を聞いても、「なんとなくだ」としか答えない。
「お前はあの女が好きなんだろ。見惚れたからな、すぐわかったぞ」
視線を泳がせていると、田村は笑った。
「箱入り娘らしくてな。婚約者もいるらしい」
功太は言葉を失った。
「ショックだったか」
「いや、別に……」
声は震えていた。

歓迎会は駅前の居酒屋で行われた。集まった学生は、新入生が十人と上級生が三人だった。店に入る前に、功太は田村から言い含められた。食堂で話したように、教授にしたい人がいる。今日の参加者を仲間にするために、頃合いを見計らって話を持ち出すから、功太にも賛同してほしい。
二人は隅の席に座った。自己紹介が終わると食事が始まった。田村はすぐに会話の中心になっていた。顔見知りが何人かいて、上級生とも交流していた。大学の講義に話題が移ると、田村は真剣な表情になった。
「だれの授業が面白いですか」
「うちの教授は大したことないよ。みんなテストだけ頑張ればいいと思ってる」
「遊んでただけの学生なんか、食っていけませんよ。有能な人間にならなきゃいけない。そのためには、有能な教授に教えてもらわなきゃいけないでしょ」
田村が強い調子で言ったので、緊張した空気になった。彼は続けた。
「ぼくの高校の先生で、本井って人がいるんですけど、この人が文学の第一人者なんですよ。ぜひうちの教授にしたいと思ってます。仲間を集めて署名とか講演会をするつもりなんですけど、協力してもらえませんか」
ほとんどの参加者は間に受けておらず、にやにやしていた。話を聞いていない者もいた。同級生の何人かは感心した様子でいた。店を出た後、田村は彼らと連絡先を交換していた。
「あんまりうまくいかなかったな」
「何人か仲間はできたからな。それだけでもよかったよ。明後日もまた違う集まりに出る。そこでも同じ話をしてみるつもりだ」
彼は学内の集会や歓送迎会には必ず出席していた。そうまでして教授にしようとしている人に、功太は会ってみたかった。そう告げると、「すぐ会える」と田村は答えた。
「あの人は暇だからな。大学にもよく来るんだよ」

 

授業は次の日から始まった。板書を写すだけで退屈だった。明美を探したが、いなかった。昼休みに食堂に行くと田村に会った。講義はつまらないと言うと、当たり前だと返ってきた。
「面白いわけがない。期待するだけ無駄だ」
演劇部の上演会があるので行かないかと誘われた。今日は本井も来ているらしい。この後も授業があると答えた。
「西宮も来るぞ」
功太は行くことにした。

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