創作小説 初雪の降る頃に ②

長坂が急死したという知らせを聞いた。
「昨日の夜中に病状が急変したんだってさ。臓器不全と内出血だって」
光晴は言った。彼は話している最中もスマートフォンをいじる手を止めることはなかった。
学校に行くと教室の空気がいつもより重かった。みんな口々に長坂のことについて語っていたが、声は小さく、周囲をはばかるようにしていた。野球部員は目を赤くしていた。女子生徒の中にも声を震わせている者もいた。京子は息を潜めて席まで歩いた。何人かの生徒と挨拶をしたが、誰も長坂の話をしてこなかった。その話をされたら笑ってしまいそうだった。

通夜には、学校の教師や卒業生も参列した。光晴と裕二は野球部のOBに挨拶していた。京子は一月の寒い夜に遠出しなければいけない面倒と交通費の事ばかり考えていた。
光晴は他の野球部員と一緒に並んでいた。参列者が多いので、焼香の列は会館の一階から二階にかけて長く続いていた。京子は光晴より前に並んでいたので階段の上から彼を見下ろしていた。時々二人の目が合うと、光晴は退屈そうに口元だけで笑ってみせた。
棺の中の長坂を見て京子は息を呑んだ。ふっくらと丸みを帯びていた頰は痩せこけて、顎が尖っていた。歯は抜け落ち、前歯が二本だけ残っていた。頭髪も抜け落ち、わずかに残った髪は額にかかっていた。肌は真っ黒で、炭のようになっていた。
震える手で京子は焼香した。列から外れ、トイレに入って自分の顔を鏡で見る。白い頰は暖房のせいでほんのりと赤みを帯びている。指で触れてみると、微かに熱を帯びているのを感じた。

帰りは光晴と帰った。
「長坂の体、内出血のせいであんな風になったらしいよ」
京子は聞いていなかった。窓の外は真っ暗で何も見えない。その闇の中に、長坂が映ったような気がした。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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