創作小説 煙草を吸う女 ①

その年、わたしは十九歳だった。受験が終わった開放感と、四年間遊べるという期待に胸を躍らせていた。文学部だったが、本など読まなかった。偏差値が低かったから入っただけだ。
彼女を見かけたのは入学後のガイダンスでのことだった。長い髪を茶色に染め、背も高かった。女性が少ない学科なので、目立っていた。大人びた表情には自信が溢れていた。授業中も私語が多かった。注意をされても笑ってごまかし、また喋り出す。わたしは仲間といないと不安になって、いつも誰かと一緒にいた。白い目で見られても平気な彼女が羨ましかった。
サークルの説明会で、隣の席に彼女がいた。香水の香りが鼻をついた。活動内容の説明中も、足を組んでスマートフォンをいじっていた。部長が苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。部長は公子という名前だった。小太りで背の低い女で、顔立ちも美しいとは言えなかった。成績は優秀だったが、それを鼻にかけるところがあった。
サークルに入ってすぐ、歓迎会が開かれた。集合場所に彼女が来なかったので、探してくるようにと言われた。人のいない校舎は広く感じた。一番隅にある小さな教室に彼女はいた。扉を開けると、煙草の臭いがした。
「どうしたの」
窓から夕日が差し込んで、彼女を照らしていた。煙草を指にはさんで足を組んでいる姿を今でも覚えている。煙が渦巻いていた。
「部長が探してるよ」
「あ、そう」
「あ、そうって……」
「あなたも吸わない?」
「未成年だから……」
「みんな吸ってるよ」
煙草とライターを受け取った。体が火照って、心臓が高鳴った。火を付けて吸ってみると、咳き込んで涙が出た。彼女は笑った。
「よくこんなもの吸えるね」
「そのうち癖になるよ」
彼女と恋人になったような気分になっていた。お互いの名前も知れた。松本茜といった。茜は高校時代の恋愛経験や、教授の悪口を聞かせてくれた。聞き入っていると、公子がやってきた。
「なにやってるの」
わたしは慌てて煙草の火を消した。公子は茜に言った。
「とっくに時間は過ぎてるよ」
「時間って、なんの?」
「歓迎会」
「行かない」
「あなたたちのためにやるんだけど」
「頼んでない」
公子は顔を引きつらせた。しばらく黙っていたが、わたしの方を向いた。
「あんたも欠席?」
答えを待たずに、彼女は去っていった。立ちすくんでいると、茜が言った
「行った方がいいんじゃない」
迷った末に、公子の後を追った。体には煙草の臭いが染み付いていた。大人になれたような気がした。歓迎会の最中も、茜のことを考えていた。煙草の味が蘇ってくる。彼女の姿は脳裏に焼きついていた。

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